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「まず自己紹介して? マジ誰だしって感じなんだけど。近所の人?」
「す、すまない……」
ごそごそと鞄を探っていたと思ったら、小さい四角い紙――名刺が出てきた。
「ことう? ふるふじ?」
「ごとうだ。古藤」
「名前読めないね、しんげつさん?」
「しづき、だ。心月で」
「代表取締役って、なに?」
「簡単に言うと、社長、かな」
見えないな、と考えたのが顔に出たのか、ばつが悪そうに目がそらされた。
「伊月と心月で、名前に月があるのは同じだ」
「君は……警戒心がないって言われないかい?」
拉致っておいて、心配されるのも奇妙な気分だが、演技じゃなさそうだった。器用な感じもしない。
「全然。面倒くさがりだねとは言われる」
「知らない人に、付いて行かないと」
「教わったけど、これは拉致だし誘拐だね。なんだったら、名刺と一緒にネットにさらして通報したら、古藤さんは犯罪者だよ?」
やらないけど、と付け足したのに、心月の顔は真っ青になった。
どうみてもただの二十代――多分――のスーツ着たお兄さんだ。ひげはない。眼鏡もない。別にイケメンでもない。特徴を上げるなら、少しタレ目で人がよさそうとか気が弱そうな、顔。
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