これはいつもの事ですか?

5/17
前へ
/17ページ
次へ
「まず自己紹介して? マジ誰だしって感じなんだけど。近所の人?」 「す、すまない……」  ごそごそと鞄を探っていたと思ったら、小さい四角い紙――名刺が出てきた。 「ことう? ふるふじ?」 「ごとうだ。古藤」 「名前読めないね、しんげつさん?」  「しづき、だ。心月(それ)で」 「代表取締役って、なに?」 「簡単に言うと、社長、かな」  見えないな、と考えたのが顔に出たのか、ばつが悪そうに目がそらされた。 「伊月と心月で、名前に月があるのは同じだ」 「君は……警戒心がないって言われないかい?」  拉致っておいて、心配されるのも奇妙な気分だが、演技じゃなさそうだった。器用な感じもしない。 「全然。面倒くさがりだねとは言われる」 「知らない人に、付いて行かないと」 「教わったけど、これは拉致だし誘拐だね。なんだったら、名刺(これ)と一緒にネットにさらして通報したら、古藤さんは犯罪者だよ?」  やらないけど、と付け足したのに、心月の顔は真っ青になった。  どうみてもただの二十代――多分――のスーツ着たお兄さんだ。ひげはない。眼鏡もない。別にイケメンでもない。特徴を上げるなら、少しタレ目で人がよさそうとか気が弱そうな、顔。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加