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コーラを買う手が、震えてる。
大丈夫?大丈夫。
自問自答で襟を正す。
大丈夫、やってきた。
あれから僕は、やってきた。
今日は特別な日だ。
※
初詣、でも二月、隣で君は嬉しそう。
空は蒼、葉は緑、鳥居をくぐって君笑顔。
調子を合わせて僕も笑って、都会を一旦小休止。
「やっと二人でお願いごとできるね?」
御免ね全部、僕のせい。
いつも優しい君に甘えて、先延ばしにしたスケジュール。
君は多忙で、僕は自堕落。
仕事を休んで合わせてくれた、君には頭が上がらない。
平日だからか人も少なく、デートとしては上出来だ。
寒いけど、その分木漏れ陽温かくって、澄んだ空気も心地いい。
「この神社知ってる?寅さん神社っていわれてね。不遇時代の渥美清さんが、禁煙誓って願掛けしたらしいの。その後家に帰ったら電話がちりりん。『男はつらいよ』の寅さん役が決まったんだって。
だから、絶対御利益間違いなしの芸能の神様なんです。」
得意気に、姉さん肌で語る君。
切ったばかりのミィディアムボブも、笑窪が映えて似合っている。
「で、一番重要なのが願掛けでね?自分の中で、いっちばん辛いもの、依存しているものをやめないといけないんだって。男はつらいよ、ってことですよ。」
僕は逡巡、考えた。
生まれてこの方、煙草吸わない酒飲まない。
博打は職業だけでいい。
この状況で「女断つ。」なんて言おうもんなら、君の立場はどうなるの?
苦悩に懊悩、煩悶、苦悶。
コーラをやめることにした。
ふざけてない、本当に、僕にとっては極刑だ。
フランス人が水かの如きで、ワインをがぶがぶ飲むならば。
僕にとってはコーラがそれだ、早くも喉が飢えてきた。
「コーラじゃ御利益少なそうな気もするけど、なんかいいですね。最後に飲んどかなくって大丈夫?」
一旦神社を離れた自販機、二人で一本、愛しく飲み干す。
こういう時は僕が買う。
千円以下の小さいものなら、御主人面して奢るのだ。
その他諸々食事や生活、全ては君に甘えてた。
情けなかった、恥ずかしかった、最後のコーラはそんな味。
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