顔面寿司

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それから一転、神妙に。 二人並んで、真剣に。 慣れない二礼二拍手一拝、自分本位に成功祈る。 売れろ売れろよ誰より売れろ。 売れろ売れろよ誰より売れろ。 売れろ売れろよ誰より売れろ。。。 はッ、気付けば息を止めていた。 水から上がった時みたい、悪夢が覚めた時みたい。 何処まで必死だ、みっともない。 隣でニヤニヤ君が見ている。 照れ隠しの為、慌てて聞いた。 君は何を願ったの? 「内緒だよ。ねぇ、あそこにお神籤あるからやってみません?」 由緒があって奥ゆかしい、そこらの事情も判るんだけど、硬貨以外は受け付けない? さっきのコーラで小銭は尽きたし、何処かでお札を崩さねば。 「私あるよ?」と君は言うけど、神籤を奢りで引く奴なんて、大凶以下の人非人。 寒い懐ぴりりと痛むが、避けれる惨めは避けとこう。 再び一人で神社の外へ。 小走りぶらぶらコンビニ探すも、下町風情で見当たらない。 仕方がないからさっきの自販機、ふざけてコーラを買ってみた。 ユーモアとしてはいいだろう?君に飲んでもらえばいいし。 神社に戻ってじゃーんと見せたら、綺麗にスベって立場無し。 恐らく神も苦笑い、流石は神社の閑さや。 でもまぁ君が飲めばいいじゃん、御免ね、僕が悪かった。 「あのね、私もさっきコーラやめたんです。貴方が売れるまでは、絶対飲みませんって。」 返す言葉を持ってなかった、目頭一気に熱くなる。 人のコーラをやめさせた。 自分のことしか頭になかった、己が心底恥ずかしい。 ありがとね、本当に、僕は君を信じるよ。 寅さん神社の神様よりも、君のが僕を想ってる。 僕はもう、神様なんて信じない。 僕の隣で支えてくれてる、君が神より神なんだ。 家族に同志に友人もそう、近くの皆んなが神様だ。 特に君、ありがとう。 いつも御免ね、ありがとう。 顔は笑って心は泣き面、二人寄り添い帰路に就く。 この瞬間、忘れない、斜陽に色付く鶯谷。 不確定、誰でもない、僕から漂う厭な臭気。 そんな臭いも君は肯定、君がいるから歩けるね。 不甲斐ない、僕だから、今君に出来ることなんて。 いつもより、細心に、声色優しく喋るだけ。 ありがとう、ありがとう…感謝の言葉を繰り返したけど、その成分はごめんなさい。 「どうしたの急に?なんか変だよ? こちらこそ、いつも楽しい時間をありがとうございます。」 僕が本当にやめるべきは、君だった。
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