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驚愕をあらわにする文也に今度は和真が詰め寄った。互いの間の距離を素早く縮めてその両肩をがしりとつかむ。自分の知らないその話にどうにも看過できないものを感じて、当惑する文也に目線で吐けと迫った。
対する文也は、和真が知らないという事実がよほど想定外であったのか、眉間にしわを寄せてなにやらぶつぶつと呟いている。
「――てことはお嬢様があえて和真先輩に黙ってたってことか……? だったら和真先輩が今まで一晩も欠かさなかったのも……」
「途切れ途切れじゃなくて、最初からちゃんと説明しろ!」
肩を揺さぶると、文也はようやく和真の視線を受け止めた。
「分かりましたよ……」
あまり気が進まないような返事をしてから、彼は過去を振り返るように斜め上に視線を投げた。
「和真先輩もこれは知ってると思いますけど、お嬢様はここ二、三年微熱すら出していません。それについて二年前くらいに、お医者様の定期診察で相談しているんですよ。といっても、困った症状というわけではないので、相談というよりは、見解を聞いたってほうが正しいですけど。そしたら、『深青さんと和真くんが互いに抱く感情に変化が起きて、それが口付けの効果にプラスの影響を及ぼしたのかもしれない』ってことで……」
「…………? 感情の変化? っていうのは?」
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