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 傍目(おかめ)八目とはよく言ったものである。当人同士だけが気がつかずにあれこれ憂慮を巡らせて、大事なことには気がつけない。そのくせ周囲には筒抜けだなんて、当事者としては笑えない。  和真は強烈な羞恥を誤魔化すようにわざとらしい咳払いを一つする。 「とりあえず、分かった。深青は誰ともキスしてないんだな」 「だから、そう言ってるじゃないですか」  文也が苦笑するのを苦々しく感じつつも、その事実があれば、もうそれでいいと自分を無理やりに納得させた。 ***  香山家に着くと、応対に出た使用人が和真の顔を見るなり、「さあ奥へ」と深青の部屋へ通してくれた。その慌ただしい対応に、どれだけ自分の到着が心待ちにされていたのかを知る。  深青の部屋には、深青の母である美里と医者が詰めていた。和真を部屋まで通した使用人が障子を開いて「和真さんがお着きです」と告げると、深青の傍らに座していた二人は待ちかねたように振り向いた。しかし、和真の視線は二人を素通りしてその向こうの深青に注がれる。彼女は、苦しげな呼吸を繰り返しながら、ぼんやりした視線を和真に向けた。 「かずま……?」  名を呼ばれた和真は、挨拶も忘れて、そのそばに駆け寄った。 「二人にしてくれますか」  礼儀を欠いたもの言いにも関わらず、美里と医者は心得たように立ち上がって、なにも言わずに部屋を辞していった。 「和真、なんで……」 「黙って」     
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