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言葉を募ろうとする深青が口を閉ざすなり、和真は唇を重ね合わせた。雰囲気もなにもない、唇を合わせるだけの行為。けれども和真は、自分の力を彼女に分け与えるようなつもりで、何度も角度を変え、しつこいくらいに触れ合わせるだけの口付けを繰り返した。
唇を合わせているだけで、至近距離で感じとる深青の呼吸が、徐々に、けれど確実に、安らかなものに変わっていく。自分だけができる、彼女を生かすための行為。その甘美な響きに喜びを覚えて、ひたすら口付けに没頭した。
力なく横たわるだけだった深青の身体が少しずつ活力を取り戻していく。それと比例して穏やかな安堵が和真の胸中に広がる。一方で、行為が本来意図するところである甘い恋情も、また同時に湧き上がってきた。
彼女と口付けを交わすことができるのは、自分だけだという事実に無上の喜びを感じた。和真が深青を特別だと思うように、深青にとっても和真が唯一だという事実は、なんと幸せなことだろうか。
身のうちから溢れ出そうな愛情に急かされて、まだ熱を帯びている深青の唇を、そろりと舌で撫でた。ふっと息を乱して、身体を震わせる深青がたまらなく愛おしい。覆いかぶさるようにしてその身体を抱きしめると、深青の生命を主張するかのような熱が直に伝わってきて、和真を高ぶらせた。
深青が熱い息を吐いた隙間に舌を滑り込ませる。
「……ぁ、かずま、待て……それは」
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