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 香山の人々はただ粛々と深青の看病を続けている。与えるべき薬もなく、ただ深青のための食事と水を運び、汗を拭き、着替えをさせ……彼らにできるのはその程度であった。ましてや、まだ十を数えるほどの和真にできることなどなにもない。こうしてそばにいても、なにか急変があったとき急いで人を呼びに立つのがせいぜいだ。生まれたときからともに過ごし、成長してきた相手がこのような苦境にあるというのに、傍観するしかできない自分がひどく歯がゆかった。  深青の額に汗がにじむ。せめて拭ってやろうと傍らの手ぬぐいに右手を伸ばすと、左手のうちにある指がぴくりと動いた。 「ん……」  熱に浮かされていた意識がしばし浮上してきたのだろう、乾いたのどに引っ掛かったような声をもらして、深青は身をよじった。 「か……ず、ま…………?」  ぼんやりと瞳をゆらす深青に、和真は身を乗り出して視線を合わせた。 「深青、気がついたのか」 「うん……」 「のど乾いただろ。水飲むか」  手ぬぐいを置いて、代わりに盆に載せられた水差しに手を伸ばす。 「か、わいた……和真、私、すごく乾いてる……」 「うん。今、水入れるから」  グラスに水を注ぐため、手を解こうとする。しかし解けない。深青が手を強く握り返してくるからだ。 「深青、手を……」  言いさしたまま、和真は息を呑んだ。和真の手をつかむ深青の手に、突如として尋常ならざる力が込められたのだ。爪が皮膚に食い込み、痛みに身じろぎするも、彼女の手は固く和真のそれを捕らえてびくともしない。いつの間にやら床に身を起こしていた深青は、弱った身体のどこにそんな力がというほどの強さで、和真を床に引きずり込んだ。     
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