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「深青! どうしたんだ? 手をはな――――?!」
骨が軋むほどの痛みにくわえ、深青の上に伏す形で彼女の熱に包まれた和真は混乱の極みに立った。なんとか体勢を整えようと深青の頭の横に手をついて、顔を上げれば、彼女の視線と真正面からぶつかった。
その瞳に視線を合わせた瞬間、「あ、囚われるな」と意識の底で妙に冷静につぶやく自分がいた。
高熱の最中にあるとは思えないほど穏やかな表情で、和真を見つめ返す深青の瞳は、けれども底知れぬ妖しい光を帯びていた。彼女の左手が、和真の頬に添えられる。触れたところからは強烈な熱を与えられているのに、頭の芯は血の気が引くような、おぞけを覚え、和真は指一本動かせない。
「なあ和真。私のこと、助けてくれるだろう?」
質問の内容が、うまく咀嚼できない。硬直して、是非も答えられぬ和真の様子を、深青はさして気にかけることもなく、ゆっくりと口角を上げた。十歳とは思えぬ、妖艶な笑みだった。
深青の手が、柔らかく和真をいざなう。和真の額に深青の前髪が当たった。次いで鼻が。そうして、和真は彼女に誘われるままに、自分の唇を彼女のそれへと重ね合わせた。
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