376人が本棚に入れています
本棚に追加
我に返ったとき、和真は一刻前と同様、眠る深青の傍らに座していた。居眠りをしていたわけでもないのに、直前の記憶がひどく曖昧で、戸惑うように己のこめかみに触れる。
ちらりちらりと、途切れ途切れに脳裏によみがえるのは、目の前の少女と自分が口づけを交わす情景だ。そんなばかな、と咄嗟に理性が否定する。さすがに、それがどのような行為であるかくらいは知っている。けれどもそれは本やテレビで得た知識であって、まだ年端もいかない我が身に起こるなど想像もつかない。夢であったのではないかと、半ば強引に決めつけようとしたところへ、指先にひやりと濡れる感触がした。
はっとして見てみれば、水差しが倒れて盆に水があふれている。いつの間に……と思いを馳せれば、心当たりは一つしかない。深青の床に引き込まれたときだ。やはり、口づけの情景は夢の出来事ではなかったのだと、にわかには信じがたい事実に直面する。
逃避するように、そういえば、と深青の体調に思考が向かった。狼狽のあまり彼女の体調を慮るのをすっかり忘れていたが、口づけに至る一連の動作で無理をして、悪化などさせていはしないだろうか。今さらな懸念を覚えて、横たわる深青の様子をそっとうかがう。
最初のコメントを投稿しよう!