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 湿気を帯びた空気が若干の息苦しさを感じさせる朝、中学の制服をまとった和真は、参考書やら部活の用具やらで膨れた通学バッグを肩にかけ、いつものように深青の家へ向かった。  中学にもなって家まで迎えにというのも過保護な気がするが、もともと香山家は、和真の通学経路から寄りやすい場所に位置しているし、朝になって深青の体調が急変していた場合、和真が赴くのが手っ取り早いということでそうしている。とはいえ、深青が高熱に倒れたのは十歳のあのとき以来一度もないので、もはや惰性のような習慣だ。  学校へ続く下りの坂道から途中でそれて、北の山へ少し登っていくと、広大な敷地を持つ香山の表門が見えてくる。里でも最大の規模と歴史を持つ旧家に相応しくその門構えはたいそう立派だ。ちょうど和真たちの通学時間帯は、使用人が門前を掃き清める時間に重なっているらしい。今朝もほうきを片手に表に出ている女性とはずいぶん前から顔見知りだ。 「おはようございます」 「あら、和真さん。おはようございます。今朝も早いですね」  互いの顔を確認できるほどの距離に来た和真が挨拶を投げかけると、顔を上げた女性もにこやかに返してくれる。     
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