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「さっきから黙って聞いてりゃよぉ、くっだらねぇ話ばっかしやがって。結局これかよ」
机の上に両足を乗せ、悪態をついてみせる鮫島くん。クラスで唯一、髪を茶色に染め、ラフに制服を着崩している。僕が見た中でも、彼は何度か金明先生に注意を受けている生徒だ。朝のホームルームには滅多に顔を出さない。智田くんとは違った意味で、悪目立ちしている。
「なあ、もう分かってんだろ。俺が二時限目、“授業をサボってた”のをよぉ!」
有り体に言って、彼は不良だった。
△▼4△▼
議論が理路整然と行われないのは、大きな理由として『他人の話を聞かない人間が居る』からだ。
進行役や論敵の意見なんて聞く耳持たず、食い気味に言葉を重ね、自分の主張だけを押し通す。
そう、こんな具合に。
「俺はやってねぇ」
「誰も鮫島が何かしたとは言ってないだろう。二時限目の授業中、どこに居たのかを訊いているだけだ」
「俺は、やってねぇ」
金明先生の静やかな対応も虚しく、鮫島くんは『やってねぇ』の一点張りを続けている。繰り返しの中で変わっていくのは、彼の苛立ちが増しているということだ。まるで破裂寸前のゴム風船。誰も怖がって、張り詰めた空気を和らげることができない。
それでも先生だけは、執拗に質問を続けた。
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