探偵気取りの学級担任

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 こんな時でも、こんな状況だからこそ、金明先生は気遣いを忘れたりしない。教室を見渡し、生徒の顔色を推し量っている。なんだか頭が切れそうだというのは、第一印象から変わらなかった。文武両道で、他者への思いやりもある。おまけに親しみ易い。非の打ち所が無い教師とは、先生のような人格者を指すのだろう。 「今のところは平気だな。それじゃあ誰か、智田のことを教えてくれないか」  そう訊かれても、一人として喋ろうとはしなかった。  無理もない。僕と同じで、皆なるべく関わりたくないんだと思う。先生は智田くんが飛び降りたのは、事件かもしれないと告げた。だったら尚更、自分に火の粉が飛んでくるのは避けたい。  たとえ、この教室内の誰かが、犯人だったとしても。  余計な恨みなんて、買わない方が利口だ。  静まり返るクラスメイトを余所に、先生は目つきを鋭くして、よれたネクタイを緩めた。 「少し、社会勉強をしようか。これは実際にあった話だ。当時、お前らと同じ高校二年生だった俺の学校でも、生徒の自殺事件が起きた。智田のように屋上からのダイブ。時間は真夜中だったらしい。死んだのは俺の同級生で、思えば友達と言える奴だったよ」  唐突に始まった昔語りだけれど、僕達には他人事に聞こえなかった。重々しい空気のまま、金明先生だけが話を進めていく。     
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