第八章 空の果て海が陸になり 三

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 泥人形は、闇を持っていないと扱えない面もある。師匠も最初は、俺を見て諦めろとも言っていた。しかし、俺は二重人体で、闇は使えないが光二がいる。  師匠は、地面を確認すると、手に釘を持っていた。師匠の職業は大工で、釘は常に持っている。 「今、考えているから、動くな!」  地面に釘を刺して、帝が動けないようにしているらしい。 「大工?」  でも、村でも泥人形使いでは食べてゆけないのと同様に、大工だけでも食べてゆけないのだ。師匠の花柄の作業服と刺繍は、妻の店を手伝っていた事をさす。師匠の奥さんは、村で手芸用品を売り、かつ手芸を教えていた。広告塔のように、師匠もその作品を着せられている。 「上月、その恰好は何だ?俺の奥さんは、すぐに写真を撮りに来るからな……」  師匠の妻というのは、師匠のファンであり、常にカメラを持って追い掛けていた。 「まず、この泥人形の中に帝を封印、生きた泥人形に永遠の死をあげたいね……」  師匠の泥人形に帝を移し、生きた泥人形を殺すということなのか。 「分かりました。まず、この地面から泥人形を追い出すので、師匠、お願いします」  俺は切丸を出すと、光を持たせて千手を出す。 「千手、ここの地面の闇を追い出せ」  更にオロチも出し、地面を光で満たしておく。泥人形も闇の属性であるので、光は苦しいのか、滲むように地面から出てきた。 「死は穏やかに優しく、そして深く沈む。人形よ、魂を宿して、目を開け」  師匠は刺繍入りの服を着こなし、どこか似合っていた。黒地に金や銀の刺繍と、透けて見える下地がバラの花の模様など、どこのヤンキーかというような組み合わせになっておる。しかし、元々師匠自体の雰囲気がヤンキーなのだ。短い眉に、茶髪で、しかも年齢不詳であった。マンガのキャラクターのようだと、師匠の妻は惚れこんでいるらしい。 「行け」  師匠が、地面に人形を降ろした。人形は数歩だけ歩くと、ニカリを笑い。地面を足で叩いていた。  師匠がヤンキーならば、人形もヤンキーで、地面に反応がないと、ヤンキー座りで地面を睨んでいた。 「ヤマタノオロチ」  もう一度ヤマタノオロチを放つと、地面が激しく揺れていた。帝が外に出ようとしていたが、土がそれを止めている。土には、顔が幾つも浮かび、苦悶の表情をしていた。  帝に殺された研究員が、土の中でも意識を保っているのかもしれない。
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