第一章 遺伝死

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 都心から電車に乗り、一時間が過ぎた。乗車していた人は減り、眠っている人ばかりが残っている。止まるホームにも次第に光が少なくなり、降りる人もまばらになってきた。 「朱火駅、朱火駅」   俺も眠ってしまっていたのかもしれない。アナウンスが聞こえて、慌てて飛び起きると、ホームに降りた。 「良かった……降りられた」  閉まるドアに、背を挟まれるかと思った。  改札を抜けると駅前も暗くなっていた。でも、終電だったせいなのか、タクシーは幾台か残っていた。俺は、隣接する駅ビルを越すと、横にある非常階段を駆け上がる。  非常階段から、屋上の鍵を開けて中に入ると、もうとっくに営業時間が過ぎている筈の、喫茶店ひまわりに電気がついていた。ガラス超しに中を覗いてみると、厨房の辺りに電気がついていて、他にテラス席に電気が付いていた。  俺がガラスにノックすると、厨房から手が出てきて、俺の正面のガラスを叩き、ノックで返していた。 「ただいま。志摩」 「おかえりなさい。守人さん」  俺は、上月 守人(こうづき もりと)製薬会社の研究所に勤める会社員であった。今日は、本社に呼ばれ講習会を受け、更に親睦会があり、その後に飲みに連れていかれてしまった。やっと終電に乗ったものの、もう深夜になっていた。  厨房から、ろくろ首のように手だけ伸ばしているのは、志摩(しま)、俺の出身地、壱樹村(いつきむら)では×(ばつ)と呼ばれている、特殊な人間であった。  俺は、テラス席に向かうと、電気の元を確かめてみた。すると、そこには、馴染みの面々が揃っていた。 「氷渡(すがわたり)、八重樫(やえがし)、どうして、ここに居るの?」 「週末なのでね。ここで飲んでいたのさ……」  氷渡は、弁護士見習いで、八重樫は新人の医師であった。俺達は、同じ壱樹村の出身で、同じ学校の生徒であった。八重樫は先輩になるが、幼馴染のようなものだ。 「光二は、今日は、仕事を休んだの?」  光二は、俺と双子で、俺達は二重人体と呼ばれる、同じ空間に二人の人がいるような存在であった。今は、昼は俺、夜は光二にチェンジして生活している。今日は、俺が出張で遅くなるので、光二には夜の仕事を休んで貰った。 「そう、光二にチェンジできなかったからさ。そのかわり、土日は光二にチェンジしたまま、俺は一切でない予定」
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