第一章 遺伝死

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 厨房の電気を気にしていると、志摩が手を振って消してくれた。しかも、厨房だけ消してくれれば良かったのだが、テラス席の電気まで消してしまった。 「志摩、こっちに定食が出ているけど」 「家に運んでおきますので、そのまま行ってください」  俺は席を立つと、屋上で横の敷地にある御影屋に向かう。  御影屋は古い蔵を移設した建物で、二階建てになっている。御影屋のドアを開けると、階段のみが見え、店舗の部分は戸が閉まっていた。その階段を登ってゆくと、建物は二階であっても、三階へと続く階段がある。そのまま階段を登ってゆくと、景色は一変し、井戸の中になる。井戸にも階段を付けているので、更にそのまま登り、俺の家の裏手にある井戸から出た。  家の戸を開けると、志摩がもう移動していて、茶の用意をしていた。 「下田さん、どうぞ」  俺の家には、通り抜けられる土間があり、皆が通路代わりに使用していた。土間の横には、囲炉裏の間があり、リビングにしている。俺は、下田をリビングに案内すると、そのまま通り過ぎ、薪を手に取ると戻ってくる。  囲炉裏は巨大なもので、天井の太い梁から下がっている。煤がいかないように竹が置かれているが、古民家のものをそのまま使用しているので、べっ甲飴のような色になっていた。鍋を吊れるのだが、かなりの重さに耐えられるので、ここで煮物などもしていた。気温が暖かくても、囲炉裏には火を入れている。この家は藁ぶきであるので、囲炉裏に火を入れていないと、屋根に虫がわいてしまう。 「ちょっと着替えてきます」  志摩に接待を頼み、俺が後ろの自室に行くと、氷渡と八重樫も着替えのために、一旦、家に戻った。  俺の部屋は、リビングから廊下を挟み、寝室ともう一部屋を利用していた。かなり広いので仕切って、新しく客室を作ろうかとも検討している。  スーツを脱いでいると。志摩の手が出て来て、スーツの手入れをしていた。志摩は、小型の箪笥から手だけ伸ばしていて、本体は箪笥の中にある。志摩は、箪笥を幾つも持ち、置いてある場所を、自由に行き来していた。しかも、手が数えきれない程にあり、あちこちで同時に出す事ができる。 「守人さん、私は守人さんの指輪から出られますが。それだけでは不安です」 「新しく、何か作る?」  俺はアクセサリーの類が全く分からないので、キーホルダーでも作ってみよう。 「はい。お願いします」
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