第一章 遺伝死

5/9
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
 志摩は昔から心配性で、池に入る前から溺れる心配をしているような奴だ。又、指輪が無くなったらどうしようなどと、何か考えてしまったのだろう。 「志摩、俺は、土日は出ないよ。光二のままだよ」 「はい。守人さん」  もう0時は過ぎ、土曜日になってしまった。光二にチェンジしなくてはいけないが、少しだけ待ってもらおう。  俺はリビングに行くと、下田に横に座った。すると、氷渡と八重樫も半分眠った状態でやってきていた。 「下田さん、遅くなって申し訳ありません。朱火定を温めましたので、食べてください」 「はい……お願いします」  俺達は、肩書は立派だが、経験は少ない。よく俺達に相談しようと思ったものだ。 「私は、結婚して子供が一人おります。そして、もう少しで二人目が生まれます。そこで、ご相談なのです」  下田がポツリポツリと身の上の説明をしていた。俺達は、壱樹村で生まれて、壱樹村で育っているので、大概の事は驚かない。 「私の名前は、太郎です。弟が、二人いて三郎と、五郎です」  途中の兄弟は死んでしまったのであろうか。×の場合は生贄もあるので、何とも言えない。 「私の家は、代々そうで、父も幸一、幸三の二人兄弟です」  これが、今回の悩みらしい。下田の家は、二人に一人が必ず死んでしまったらしい。そこで、先祖が考えたのが、死を騙してしまうことだった。  太郎が生まれ、二郎を死んだ事にして、次男を三郎にする。そうやって、下田家は子孫を守ってきたらしい。下田は、二番目がもうすぐ生まれる。そこで、この風習を守った方がいいと主張したが、妻が笑って取り合わない。 「そうですね。壱樹村ならば、何の不思議もなく、これはアリですよね。壱樹村の外の人と結婚したのですか?」 「はい」  これは、壱樹村が最近取っている政策?で、人ばかり生れている家には、外の者と結婚してもらっていた。村の血が濃くなり過ぎないようにするためだ。  でも、外の世界では、壱樹村のような迷信を信じている精神はもう消えているだろう。 「下田さんが知っている範囲で、名前を普通につけて、亡くなった例はあるのですか?」  氷渡が眠って囲炉裏に落ちそうなので、志摩が座椅子を持ってきた。氷渡は、座椅子によりかかると、半分眠りながら会話をしていた。八重樫も、後ろに控えている小田桐に寄りかかって、半分眠っていた。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!