第八章 空の果て海が陸になり 三

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「黒川さん、帝は土の頂点から、三センチ七ミリです」  黒川は無言で刀を振り、鞘に納めた。すると、土の塊が宙に飛んでいた。 「師匠!お願いします!」 「任せろ!」   しかし、師匠の前に人がくると、土の塊を飲み込んでいた。 「利根さん!」  利根はにっこり笑うと、腹を叩く。利根は、帝を殺したいとばかり思っていた。こんな所で、助けるとは思わなかった。 「利根さん、帝を渡してください!」  師匠の泥人形が利根に歩いてゆくと、睨んでいた。自分の獲物を取られてしまって、泥人形も悔しいのであろう。 「……嫌だ、渡さない」  黒川は、利根の横に立つと、刀に手を掛けていた。でも、利根は黒川を見て首を振る。 「帝は封じられない。魂だけになっているからだ。でも、最後の方法として、こうして肉体を得れば殺せる」  黒川の手を止め乍らも、利根は自分の刀を抜くと首に当てていた。 「魂を融合させたので、もう逃げられない。俺は、帝と死ぬ事を選びたい……」  封印しても復活する可能性があるため、利根は帝の魂と融合したらしい。 「利根さん」 「仮死ではダメだ。心配で死ねない。俺は、家族に会いに行きたい……」  利根は笑顔のまま、自分の首に刀を当てると、そのまま地面に向かって飛び込んでいた。 「利根さん!」  俺が利根に走り寄ると、利根は倒れたまま、少しだけ目を開いた。でも、もう言葉は出ない。利根を起こそうとしたが、市役所の職員に止められてしまった。利根の中から、帝が出て来ないという確証はない。  暫くすると、利根が遺体袋に詰められていた。病院ではなく、遺体袋という扱いに腹を立てて、俺が抗議しようとすると、黒川が首を振る。利根は×で、早く運ばないと崩壊が広がってしまうのだ。ただの遺体袋ではなく、崩壊を防ぐ袋でもあった。 「上月。利根の安らかな顔を見たでしょ。やっと、願いが叶ったのだから、俺達はしっかりと見送ろう……」  気紛れで数百人も殺してしまうような、帝の魂を残しては、利根も死ねなかったのだろう。では、俺も手を合わせて、利根を見送るしかない。 「チビ助、残った泥人形も供養しないと……」  まだ、生きた泥人形が地面に残っていた。 「拡散して、元土には使えないものですか?ただ、消えてしまうのも可哀想で……」  この生きた泥人形は、被害者であり、加害者であった。
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