おばあちゃんのお風呂屋さん

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「お風呂に行こう」 そう誘うと、おばあちゃんはうれしそうににっこり笑って、いそいそと支度を始める。 タンスから下着を出して、私が百円均一で買って来たビニールの巾着に入れる。 それからシャンプーと石鹸を入れ、小銭入れを持って準備完了だ。 「じゃあ、行こうか」 私が手を差し出すと、ぽっちゃりした暖かい手で握り返してくる。 私とおばあちゃんは、手を繋いで家を出た。 ドアにつけたベルが、チリリンと軽やかな音を立てる。 暖かい春の夕暮れ。 でもカーディガン一枚羽織っただけでは、少し肌寒かったかもしれない。ちょっと後悔したけど、おばあちゃんは厚手のセーターを着ているし、楽しそうだからいいとする。 私はおばあちゃんの手を引いて、ゆっくりゆっくり歩いて行く。 昔はおばあちゃんが私の手を引いてくれた。 今は逆。 おばあちゃんと私の手も、今は私の手の方が大きい。 親が共働きで一人っ子、団地住まいで鍵っ子だった私は、完全なるおばあちゃん子だった。 その頃私たちはおばあちゃん家の近所に住んでいて、小学校から帰るとすぐにおばあちゃん家に転がり込んだものだ。 思い出の中のおばあちゃんの手は、小さかった私の手をすっぽり包み込んでくれた。 あの時のくすぐったいような幸せと安心感が私の胸によみがえる。 と同時に、今の状況の切なさにチクリとした痛みも感じていた。
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