3人が本棚に入れています
本棚に追加
「お風呂に行こう」
そう誘うと、おばあちゃんはうれしそうににっこり笑って、いそいそと支度を始める。
タンスから下着を出して、私が百円均一で買って来たビニールの巾着に入れる。
それからシャンプーと石鹸を入れ、小銭入れを持って準備完了だ。
「じゃあ、行こうか」
私が手を差し出すと、ぽっちゃりした暖かい手で握り返してくる。
私とおばあちゃんは、手を繋いで家を出た。
ドアにつけたベルが、チリリンと軽やかな音を立てる。
暖かい春の夕暮れ。
でもカーディガン一枚羽織っただけでは、少し肌寒かったかもしれない。ちょっと後悔したけど、おばあちゃんは厚手のセーターを着ているし、楽しそうだからいいとする。
私はおばあちゃんの手を引いて、ゆっくりゆっくり歩いて行く。
昔はおばあちゃんが私の手を引いてくれた。
今は逆。
おばあちゃんと私の手も、今は私の手の方が大きい。
親が共働きで一人っ子、団地住まいで鍵っ子だった私は、完全なるおばあちゃん子だった。
その頃私たちはおばあちゃん家の近所に住んでいて、小学校から帰るとすぐにおばあちゃん家に転がり込んだものだ。
思い出の中のおばあちゃんの手は、小さかった私の手をすっぽり包み込んでくれた。
あの時のくすぐったいような幸せと安心感が私の胸によみがえる。
と同時に、今の状況の切なさにチクリとした痛みも感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!