おばあちゃんのお風呂屋さん

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「こんにちは」 家に帰ると、私はよそ行きの声で言う。 するとお母さんが出て来て 「いらっしゃいませ」と答える。 おばあちゃんも機嫌良く 「お世話になります」と軽く頭を下げた。 今、おばあちゃんの中で、この家はお風呂屋さんで、お母さんはお風呂屋さんのおかみさんになっている。 きっかけは、認知症が進んだおばあちゃんが、家のお風呂に入るのを嫌がるようになったことだった。 何週間もお風呂に入ってくれず、私たちは困り果てた。 そしてある日、疲れて苛立ったお父さんが、尖った声で言った。 「そんなに家の風呂が嫌なら、風呂屋にでも行くしかないだろう!」 そしたらおばあちゃんの顔が、ばあっと明るくなって 「お風呂屋さん?行きましょう」 と言って着替えの準備を始めたのだ。 私たちは突然のことに驚いて固まってしまった。 そんな私たちをよそに、着替えとお財布を持ったおばあちゃんが玄関に向かう。 私は慌てて、おばあちゃんの後を追った。 一瞬止めようかと思ったけど、最近では何か行動の制限をすると、ひどく怒って興奮してしまうので、一緒に出かけることにした。
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