僕らは静かに

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 目の前の二十分足らずの時間が、とてつもなく膨大な日々の塊のように思えてしまい、どう過ごせばよいのかわからなくなってしまった。  仕方なく、僕は黙祷した。  店内にはエリッククラプトンが流れている。  彼のギターに合わせて僕は祈った。  どれだけ時間が経っても過去は過去のままで、僕は僕のままである。この現実が、少しでも変わってくれるように。  運ばれてきたコーヒーに二度ほど口をつけ、BGMがクラプトンから知らない歌手に変わったころ、弾かれるように扉が開いた。 「あ、あの、待ち合わせで……」  慌ただしく入ってきたのは栗色の髪を肩まで伸ばした女性で、ピンク色のシフォンブラウスに白いチュールスカートという服装。  一瞬、胃がきりり、と縮み上がる。  顔をよく見て、その客が川瀬栞里であることがわかった。髪を伸ばしているから、気づくのに時間がかかった。 「おうい」  手を挙げながら声をかける。彼女はこちらに気づくと、大きく上下していた肩を硬直させ、まるで肖像画にでもなってしまったかのように全身を強張らせた。  少しの間を置いて彼女はマスターに紅茶を頼んでから、僕の真正面の席に座った。 「こっちが呼び出したのに、遅れてすみません」  そう謝る彼女の顔には、張り付くような緊張が残っている。 「別に、構わないよ。僕が早く来すぎたんだ」     
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