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ずぅっと、ゆらりふわりとただ、漂うばかり。
ぼくは声も出ないし、涙を流すことも出来ない。
それだけじゃあ、ない。
笑うことも、怒ることも。もちろん、だから、君を抱きしめることだって出来なくて。
いつも、とても、もどかしかった。
臆病で、小さなことでいつもびっくりして逃げ出してしまう。
君の大きな瞳に除かれるのも、最初はすごく怖かったんだ。
でもいつしか、ひらりひらりと、ぼくを追う、君の大きな瞳が細められるたびに、嬉しくなったんだ。こんなぼくでも、君を喜ばせることだけは、出来ていたのかな、って。
こつ、こつと響く、ぼくを呼ぶ君の音。
君の気持はしっかりと、波紋のようにぼくに伝わるというのに、ぼくの心はいつまでも、君へは届かない。たぶん、ずぅっと。
ああ、こんなにも傍にいるのに、なんて君は遠いのだろう。
ぼくに言葉があれば。
ぼくが代わりに涙を流せたら。
せめて、このぎょろりとした表情だけでも、変えることが出来たなら。
僕を抱いて嘆く君を、抱きしめる腕があったなら。
君に少しでも、ぼくの心を届ける術があったなら。
ああ、ほら、君はぼくを見て寂しそうに眉を下げる。
泣きながら、必死で、微笑おうとしている。
ああ、綺麗だな。
きらきらと、君は本当に、綺麗だなぁ。
笑っておいで。そんなに泣かないでおくれよ。
君が笑顔でいなければ、その綺麗な服も台無しじゃあないか。
哀しい。
悲しい。
ああ、綺麗だな。
君の瞳が、本当に綺麗で、吸い込まれそうなほど深くて、きらきらとした瞳から、流れ落ちて当たる涙が、ただただぼくは哀しい。
ゆらりと流れる。ふわりと動く。
君に近づくと、こつりと、頭が硝子に触れた。
こつり。こつり。
ああ、邪魔だな。
ぼくと君を隔てるこの硝子の檻の、なんと邪魔なことか。
コツコツ、コツコツと君が檻を叩いている。呼んでいる、ぼくを呼んでいる。
今行くから。すぐに。
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