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今日は特別な日だ。イリスが、上等のドレスでめかし込んで旅立っていく日。
ドレスはこの日のため村の仕立て屋に金を積んで作ったもので、空色のそれは海の奥底のような藍にも、夕暮れの青にも変わる。
日の光の加減で虹の七色に輝く金髪を持つイリスにはぴったりの衣装だ。
喉に引っかかったパンを無理矢理スープで流し込んで、イリスを迎えに行く。
イリスはもう玄関の前で待っていた。春風に長い髪とドレスが揺れている。
「おはよう、ロッソ。きっと今日は素晴らしい一日になるでしょうね」
「……ああ。もちろんさ、イリス」
姫にかしずく騎士の動きで、ロッソは彼女の小さな頼りない手の甲に口づけた。掴んだ白い手に似合わない、粗末なオモチャの指輪がはまっていることに気づく。
「なんだいイリス、こんなもの今更・・・・・・めかし込んだ君にはもう似合わないよ」
「今更だからこそよ」
指輪はロッソが幼い頃、ままごと遊びに贈ったものだった。送ったロッソさえ、今の今まで忘れていたようなシロモノ。
村一番の年老いた魔術師のところで、やけに仰々しい儀式を受け、イリスは赤い宝石のはまった首飾りを、ロッソは従者の剣を賜った。
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