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 森が深くなる。この辺りに差し掛かると、ロッソにもイリスにも未知の場所だった。  この先にイリスとロッソの目的地となる場所がある。  人の手の入らない木の枝は日光を遮り過ぎて薄暗く、こもれびも落とさない。ジメジメとした空気と薄暗い緑地は、綺麗な花の一つもない。 「七色の花で花束を作って、誕生日に贈ってくれたわね」  手と手は繋いだまま、イリスは思い出を語り続ける。 「私の誕生日になると、あなたはいつも趣向を凝らして贈り物をしてくれたわね。私はあなたの好物の料理を作るくらいしか思いつかなくて、それでもあなたは喜んでくれて」  不気味な獣の声がする森の中、思い出にすがるようにイリスは語り続ける。  目的の場所につくまで、いつまでも、いつまでも。  ロッソはそんなイリスの言葉に聞き入って、返事もしない。  光が差した。頭上が開けたのではない。空はずっと木々に遮られたままで──日の光が木の葉を通して色を変えたように、不可思議な緑を帯びた光が、開けた土地に満ちているのだ。  空を覆っているのは一目見ただけで何千年もこの世界を生きているのだろうと推測できる、巨大な樹木の葉と枝だった。  色が怪しくとも光が差しているせいだろうか。樹の根元には、いくつもの花が咲いていた。  イリスが楽しそうに手を放す。大木に手で触れる。  くるりと振り返った髪が緑の光を吸って、エメラルドの色相を見せた。  木に背を預けたまま、イリスは告げる。   「ロッソ、大好きよ」 「……オレもだよ、イリス」  ロッソは賜った剣から留め具を外し、剣を抜く。切っ先を突き付けられてもイリスは微笑を絶やさない。  ロッソだけがためらう。ロッソの心を無視して、刃はイリスの胸を貫いた。  青年の目から涙が零れる。  今日は特別な日だ。大好きなイリスが、自分の手によって殺される日。
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