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山手線の車内は人がごった返していた。久しぶりに来た東京は以前よりも人が増えた気がする。膝の上に乗せた大きなボストンバックを落とさないように抱えなおす。
大丈夫? とあなたが上目遣いで聞いてくる。私より背の低いあなたは私に話しかけると自然とそうなる。あなたは嫌がるけれど私はとても愛らしいと思う。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
私が周りに聞こえないように小さな声で言う。ガタンと電車が揺れると同時にあなたは照れくさいのかそっぽを向いてしまう。
「今日が何の日か知ってる?」
あなたは不思議そうな顔をする。
「その顔は覚えてないんだ」
分かりやすく頬を膨らませて拗ねた態度をとる。あなたに困った顔をさせるのは心苦しいけれど困った顔も可愛いと思ってしまうので致し方ない。
必死に思い出そうとしているあなたの横顔を見て少し意地悪をしてみたくなる。
「3月11日だよ。本当に覚えてないの? ああ、うんテレビや世間では分かりやすく有名な日だけど、違うよ。もっと私達にとって個人的な日だよ」
あなたの横顔にそっと手を触れて言う。
「私達にだけ意味があるの」
「何かの記念日かって? そうね。そう言えるかも」
「またそんな面倒くさそうな顔して。面倒だと思っても付き合ってあげるのが甲斐性ってものよ。ほら、またそうやって笑ってごまかす。でもその笑顔はずるいよ。だってその顔を見ると全部許してあげたくなるもの」
くすくすとあなたの顔を見て私は笑う。周りの人の視線を感じて声を潜めた。
「あなたが変な顔するから皆に見られたじゃない。え? 変な顔はしてないって? まぁ、そうかもしれないけどね。でも、あなたはよくその顔をするわよ。初めて会った時からそうだったもの」
「覚えてる? 大学のオリエンテーションの時に初めて私に声を掛けてくれたのはあなただった。単位の履修登録の説明がちんぷんかんぷんで教えてほしいって言ってきたの」
「おかしかった。だってちんぷんかんぷんなんて久しぶりに聞いたから。それにあなたは何度教えてもなかなか理解しなくて今みたいな笑顔でごまかしていたのよ」
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