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今日は特別な日。私の人生の全ての終わり。そして始まり。
静香は長い髪を梳きながら、窓の外を見る。朝日がいくつかの段ボールがつまれている空虚な部屋を照らしていた。5年間を過ごしたこの部屋。さようなら。明日からここには帰らない。静香はシュッと香水を身にふりかけて家を出た。
特別な日には、素敵なドレスを。奮発して購入をしたのは、桜色のドレス。桜色のアーチの中、桜色のドレスで歩く。とっても春らしい。優しい風が吹いて、水が光を浴びてキラキラ輝く。新しい門出にぴったりのロケーションだ。古い私は死んで、新しく生まれ変わるんだ。
桜を見上げて思い出すのは彼のこと。彼に付き合おうと言われたのは、花も葉も散り去った桜の木の下だった。彼とは何もかもがしっくりきた。お互い変わり者のレッテルを貼られていた。そんな2人は同じ方向を見て、同じように考えていた。まったく別の場所で育ったのに、お互いの考えが分かる、この人が私の運命の人なのだと感じた。今までの孤独の日がやっと終わりを迎えたのだ。
プルルルルー
携帯がなる。母親からだ。静香はそのまま携帯を川に放った。
新しい人生に家族はいらない。
薄い青空を突き刺すように立つ東京タワーの近くある教会に着く。
静香はその扉をじっと見つめた。
彼が別れを切り出したのは突然だった。静香に合わせるのに、もう疲れたと言った。別れたくないとすがったけど、結局別れた。
でも、静香には分かっていた。彼と付き合えるのは静香だけ。静香だけが彼の隣を歩ける。他の女には無理だ。
しかし、
彼は他の女と今日、式を挙げる。
静香はショルダーバッグから、あれを取り出した。
全てを正しい道に戻す。
そして新しい人生を始める。
これは、私にしかできないこと。
今日は特別な日になる。
静香は手に持ったあれが太陽の光に反射した。
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