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『やめなたぁい! そうゆうの、よわいものいぢめっていうのよ!?』
あれは確か四歳か五歳、夏祭りの夜。
その時私は、幼なじみの杏介が知らない男の子の足元で泣いているのをみつけて飛び出していき──すかさずビシッと前屈立ち下段払いの構え。
『な? なんだぉ、おまえ。おれは……』
『きぃええぁぁぁあ!』
問答無用。
気迫を込めて、いじめっ子の肩を狙って上段蹴りを繰り出す。
『ひいっ!』
ちゃんと肩に当たる前で引いたのに、その子は頭を抱えて地面に尻もちをついてしまった。
『……あんちんして。すんどめだから』
そんな、強い自分が好きだった。
『あたちは、ののみゃーカラテ道場の花ちゃん! くやちかったら、アンタもおけいこしてきなたい!』
啖呵を切ると、いじめっ子は足をもつれさせながら逃げていく。後ろで杏介が
”花ちゃんカッコいい、花ちゃんつよーい!”と大絶賛。
我ながらまんざらでもない気分だったのを覚えてる。
事実、十五歳になった今『空手少女、野々宮 花』の名はこの世界ではそこそこ有名なのだけど……──。
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