【clip:1】痛がりやのBaby

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(高校生になったら空手やってるコトは内緒にして、普通に生活したかったのに)  入学式があったのは先週。  それからまだ数日しか経っていないのに、なぜか私が空手の有段者だということがクラスに知れわたっている。  背後に立つと回し蹴りが飛んでくるとか、痴漢を一撃で仕留めたとか。  そんな盛りすぎな武勇伝がいつの間にか広まっていて、学校の廊下を歩けば誰もがザッと道を空ける、まるで名のある土佐犬のような扱いだ。 (小学校の時から私は『最強女子・花ちゃん』。高校でもおんなじか……)    本当の私は痛がりだし、かなりグズるし、それを吐き出したい時だってある。  でも弱みをさらけ出して許されるのは普通の女の子だけ。  『空手家・花』がそんなヘタレだと世間にバレたら、きっと試合で付け込まれる。ウチの道場を担う者としてそれは断じて(NO)だ。 「……ちょっと大げさかな。ま、いいか……今まで通りって、だ……け……」  急にまぶたが重くなって、意識が遠のいていく。 (おやすみ……)  バンビ柄のクマをギュッと抱きなおし、私は心地よい夢の中へ。  明日は月曜日、本格的な高校生活のスタート。    まさかその高校生活がまったく今まで通りじゃなくなるなんて、その時の私は知る由もなかった……。
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