特別な日。

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―――― ―― 夏の風物詩、と一口に言ってもいろいろあるけれど、おれがこの季節1番楽しみにしているのは、花火でもなく海でもなくアイスクリームでもなくて、昆虫採集をする事だった。 毎年この時期になるとおれは、学校の日は放課後に、夏休みにもなれば、場合によっては1日中、虫取り網を片手にあちこちを走り回った。 多分今年も、同じような夏になると思う。 おれは小さい頃から虫が本当に好きで、それは11歳になった今でも変わらない。 ただ、昆虫採集が好きな理由はそれだけではなくて、まるで宝探しをしているかのように、いろいろな場所に現れるいろいろな虫を捕まえる――そもそもそれ自体がとても楽しいのだ。 そうして、捕まえた虫同士で戦わせたり、写真を撮ったり、捕獲した虫の種類や大きさ、数などを友達たちと競い合ったりする。 特に、珍しい虫を捕まえた時の喜びは格別であり、普段感じる事のないような、とても大きな達成感を味わう事が出来たのだった。 「……なんじゃあ、鳴かんと思ったら、おまえメスかいな」 おれは先ほど捕まえた虫を指で優しく持ちながら、つぶやくように言った。そのままゆっくりと歩いて、近くにあった切り株の上に腰を下ろす。 家から少し離れた場所にあるこの林は少々入り組んでいるけれど、今まで数え切れないほど出入りした事のあるおれにとっては庭も同然であり、どこがどうなっているのか、そのほとんどを把握している。 この切り株もおれのお気に入りスポットのひとつで、大抵湿っていて座り心地自体はあまり良くないのだけれど……カブトムシやクワガタを戦わせる時など、土俵として使えるのだ。 辺りを見回す。 夕方とはいえまだまだ明るくて、虫たちの声はそこここから聴こえてくる。 その声、木々の揺れる音、そして時折通り抜ける風が、心地好い。
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