特別な日。

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おれは片手で水筒のフタを開けて、水を飲んだ。飲みながら、また先ほど捕まえた虫を見てみる。図鑑でなら何度も見た事があるし、以前友達が捕まえたのを見せてもらった事もある。……けれど、自分の手で捕まえたのは、これが初めてだった。 身体は少し小柄で、透き通った目している。透明の羽はとても美しくて、かわいらしい。 だが、反応はやや鈍くて、心なしかあまり元気がないような気がした。 おれは初めて捕まえたという感動をもう少し噛みしめていたかったのだけれど、こうして持っているだけでも虫には相当のストレスを与えてしまい、寿命を縮めてしまう可能性もある。 とりあえず逃がす前に、記念の写真だけは撮っておかないと――と、おれは荷物の入っているリュックに手を入れた。 「――こんにちは」 突然背中から小さな声がかかり、おれは身体ごと跳ね、「うぉお!?」と叫んだ。 あ、と思った時には手が開いていて、持っていたはずの虫がどこにもいなくなっている。 慌てて顔を動かすが、やはりもう、どこにもいない。いない。……なんて事だ。 「……っ、っ、っ! ……どアホ! どこの誰じゃ! 急にびっくりするじゃろうが! おかげで、虫が――」言いながら、おれは立ち上がり、振り返った。 ……知らない顔。 自分に話しかけてきたのでてっきり同級生の誰かかと思っていたのだがそうではなく、今まで見た事のない女子が、そこには立っていた。 真っ白い涼しげなワンピースに、肩にかかる程度の黒髪。大きな目。 身長はおれより少しだけ高くて、肌はうっすらと焼けている。 歳は良く分からなかったけれど、少なくとも3つ以上は年上だろうか。 「…………」 おれは瞬きをしてから、もう1度、その女の事を見た。けれど、やはり見覚えなどない。 言葉を出せずにいると、女は申し訳なさそうに眉を下げ「ごめん、驚かせて」と、細い声で言った。 そのままあまり躊躇もせず、地面に、ぺたんと座る。 「……。そんなとこ座っとったら、服に土がつくけん」 切り株の上に座るよう促すと、女は「……ん」と小さくうなずいてから、服をぱたぱたとはたいて、おれの隣に座った。
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