特別な日。

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「…………」 しばらくの間があく。 おれが何も話せずにいると――女は急に悲しそうに目を細めて、「……もうすぐ、死ぬんかな」と、小さい声で、言った。 「……な。そのヒグラシ、もうすぐ死ぬんかな」 「知らんよ。……なんで、そげな事言うん」 「だって、あんたが見て、弱っとったんじゃろ。……それに、セミは長生きは出来んて、どこかで聞いた事あるけん」 確かにセミの成虫は数日、十数日程度でその大半が死んでしまう。 けれどそれでも、他の虫と比べて寿命が極端に短いという事ではないし、幼虫の時期も加えて考えれば、セミは充分長く生きている。 それに、虫の世界に――いや、もしかしたら他の生き物もそうかもしれないけれど。 とにかく、虫の世界には、寿命が長いとか、短いとか、そんな事はあまり関係がない。おれはそう思っている。 「のう。セミがどうして、あっちこっちで、ぎゃあぎゃあ鳴いとるか知っとるか?」 「……。メスを呼ぶため……じゃろ」 「そうじゃ」おれは大きくうなずいた。 「セミのオスはメスを呼ぶため、つまり子孫をのこすために、みんなデカい声で騒いどるんじゃ。 みんな必死で、頑張って、鳴いて、騒いで――じゃから、わしはセミの鳴き声がすごく好きなんじゃ。生きとる、いうんが伝わってくる気がして」 女は何も言わない。おれは話を続ける。 「……な、じゃから、子孫をのこすんが、セミの使命で、目標で、生きる意味で――じゃから、あのメスだって、気にせんでも、大丈夫じゃ。もう、きっと使命を全うして……」 そこまで言ったところで、おれははっとして、言葉を切った。そのまま、じわじわと、心臓が、鳴る。 話す事に夢中で、気づかなかった。 おれの目の前で――女が、身体を小さくふるわせて、膝を抱えていたのだ。
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