特別な日。

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「……ど、どうしたんじゃ!? 具合い悪うなったんか!?」 「……違う」 「じゃあ、なんじゃ!? 寒いんか!?」 「……、違うんじゃ……」 その身体は相変わらずふるえ続けていて、両の手で、力いっぱいそれをおさえつけているようにも見える。しかし、ふるえはおさまらない。 事情が、状況が、まったくのみこめない。 ただ、そんなおれをよそに、女は、まるで最後の力を振り絞るようにして――ゆっくりと顔を上げた。 「…………」 目と目が合う。 おれはその時、初めてちゃんと、本当にちゃんと、女の顔を見た気がした。 顔。――瞳。 その透き通った瞳を見て、思わず息をのんでしまう。 「……、おまえ……」 息が、つまる。 その瞳は、先ほどおれの手から逃がした、逃げ出したはずの、あのヒグラシの瞳に、あまりにもよく似ていたのだ。
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