特別な日。

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―――― ―― ――夢? 妄想? それとも――幻? ……分からない。 けれど……女は確かに、おれの目の前にいた。 そうして、静かに、ゆっくりと。 女はまるで歌うように、唇を動かした。 「……うちな、ついこの前まで、ずっと、暗いとこにいたんよ。 そこは、あったかくて、ふわふわしてて、でも怖くて、寂しくて……うち、いつも、ビクビクしてた。 だからうち、初めて『外』に出た時、すごく感動した。 外は明るくて、どこもキラキラしてて、本当に、素敵なところだなあって思った。 ……でも、ある時、見てしまったんよ。 目の前で。 みんなが、死ぬ、その瞬間を。 いろんなところで、何度も何度も。 あるコは、鳥に食われて死んだ。 あるコは、木にぶつかって死んだ。 あるコは、卵をうんで、力尽きて、死んだ」 女は、きゅ、とくちびるを噛む。 「……だからうち、ずっと逃げて、逃げ続けてきた。 自分の使命が分かっていながら……分かっていたのに、それでも、怖くて、逃げた。 出来るだけ、安全なところで、オスとも会わず、ずっと、ひとりで生きてきた。 でも……それでも結局、『死ぬ』って事からは、逃げられんかった。 ……そんな事分かりきった事なのに、うちは、そんな道を選んでしまった。 ……しまいに、日に日に飛ぶのがつらくなって、動くのがつらくなって……あんたの網に入った時は、もう、木にとまっている事すら、つらかったんよ……」 そこまで一気に吐き出すと――女は、目を閉じて、小さくおれの肩にもたれかかった。 微かに木の香りがする女は、とても軽くて。 そして、とても、あたたかかった。
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