1人が本棚に入れています
本棚に追加
――――
――
――夢?
妄想?
それとも――幻?
……分からない。
けれど……女は確かに、おれの目の前にいた。
そうして、静かに、ゆっくりと。
女はまるで歌うように、唇を動かした。
「……うちな、ついこの前まで、ずっと、暗いとこにいたんよ。
そこは、あったかくて、ふわふわしてて、でも怖くて、寂しくて……うち、いつも、ビクビクしてた。
だからうち、初めて『外』に出た時、すごく感動した。
外は明るくて、どこもキラキラしてて、本当に、素敵なところだなあって思った。
……でも、ある時、見てしまったんよ。
目の前で。
みんなが、死ぬ、その瞬間を。
いろんなところで、何度も何度も。
あるコは、鳥に食われて死んだ。
あるコは、木にぶつかって死んだ。
あるコは、卵をうんで、力尽きて、死んだ」
女は、きゅ、とくちびるを噛む。
「……だからうち、ずっと逃げて、逃げ続けてきた。
自分の使命が分かっていながら……分かっていたのに、それでも、怖くて、逃げた。
出来るだけ、安全なところで、オスとも会わず、ずっと、ひとりで生きてきた。
でも……それでも結局、『死ぬ』って事からは、逃げられんかった。
……そんな事分かりきった事なのに、うちは、そんな道を選んでしまった。
……しまいに、日に日に飛ぶのがつらくなって、動くのがつらくなって……あんたの網に入った時は、もう、木にとまっている事すら、つらかったんよ……」
そこまで一気に吐き出すと――女は、目を閉じて、小さくおれの肩にもたれかかった。
微かに木の香りがする女は、とても軽くて。
そして、とても、あたたかかった。
最初のコメントを投稿しよう!