*始まりの時

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四月初旬の日曜昼下がり。 私は、父母のアシェットデセール専門店の大きな窓辺に、ひとりボンヤリと佇んでいた。 アシェットデセールとは、お皿盛りのデザートを意味するフランス語のこと。 お店でしか味わうことの出来ない作り立てのスイーツを御客様に提供することが出来る為、視覚と味覚で存分に楽しんで頂けるのが最大の魅力である。 いつの間にか桜が満開……。 南の白いフレンチドアを開けると、澄み渡る青空の下に麗らかな春景色と柔らかな彩りが広がっていた。 ゆっくり深呼吸しながら右上に目をやると、大好きな桜に射し込む木漏れ日が、ダイアモンドみたくキラキラ輝き放つ光景に目を細める。 綺麗……気持ちいい……。 目映い光を手で遮ると、穏やかな春風が頬と髪を抜け行く心地よさにそっと瞳を閉じてみる。 すると溢れかけていた哀しみが雫と化し、一斉に頬を伝いながらスイッチが切れたように体の力が抜け落ちていく。 同時にしゃがみ込み、膝で顔を隠す。 ……なぜ? ……なぜこんなことに? 心の内での宛無き問い掛けには、当然誰も答えてくれない。
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