*始まりの時

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心で気合いを入れ顔を上げると、目の前に黒いスクエア型の眼鏡を掛けた男性のドアップがあり、思わず悲鳴を上げてしまう。 「……び、びっくりした」 その人は、このカフェの常連さんで、推定年齢二十八歳の朝咲龍君。 一年程前から毎週のように通ってくれた彼は、恐らく来店回数No.1に違いない。 とても知的でクールな印象の彼は、甘い物は苦手そうに見えるが、意外な事に熱烈スイーツ男子である。 父母の芸術的なデザートの大ファンで、いつもひとりカウンターの真ん中に座り、仕上げまでの臨場感を微笑みながら楽しんでいた。 推定身長180センチのスラッとした彼を初めて見た時、実に白衣が似合いそうと思った。 雰囲気的に理数系男子とも。 実際どうなのかは、知らないけど。 彼の彼女で幼馴染みのヒロミの話では、自分のこと語るのも詮索されるのも好きじゃないそう。 何気に仕事を聞いた時も然り気無くかわされたし、ここへの来店も半年ヒロミに内緒にしてて怒られてた。 本人"関係ねぇし"って感じで仏頂面してたけど。 ヒロミは、明るく人懐こい犬系女子で、落ち着き払った龍君とは実に対称的なのよね。 でも同僚三人でスイーツ部を結成していて、 龍君が部長というのが意外で可愛いの。 そんな彼は、優しさとアクティブな印象を融合させた雰囲気のダークブラウンショートヘアで、セットすればお洒落なのにいつも洗いざらしでちょいダサ……いえ、ナチュラルヘアである。
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