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「哲夫は!?」
義之は哲夫の名前を探した。
だが死亡者の中に哲夫の名前はなかった。
哲夫は生きている。
少なくとも死んではいない。
不幸中の幸いという言葉は使いたくないが恵が死んだという悲しい事実の片隅にわずかだが安堵の思いが灯った。
そのときドアがノックされた。
「誰?」
美樹が不安気に義之を見る。
たしかにこんな時間に来客があったことはない。
一瞬、老婆かとも思ったが考えてみたら美樹が夢を見た時間まではまだ24時間もある。
「大丈夫だよ」
そう言いながら義之はドア窓を覗いた。
ドアの前には憔悴しきった哲夫が立っていた。
「哲夫!!」
慌ててドアを開ける。
「よお」
哲夫は弱々しく笑いながら手をあげた。
義之は哲夫を部屋に入れるとすぐにドアをロックした。
「なにがあったんだよ……大丈夫か?」
「俺はな」
哲夫の身体に外傷は見られなかった。
「哲っちゃん!!」
美樹も立ち上がり両手を口にあてて見た。
恵を失って悲しみに曇っていた表情にわずかだが喜びが混ざる。
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