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「それ」は――人間だった。
いや、正確には「人間のような姿をしたもの」と言うべきだろう。何故なら「それ」は、少し大きめとはいえ卵から生まれたのだ。青年の手の平くらいの大きさしかない。さらによく見れば、背中には向こうが透けて見えそうなほどに薄い羽根が四枚、蜻蛉のようについていた。
――妖精?
混乱する青年の思考に、その言葉がぷかりと浮かび上がった。
何もできずに固まっている青年をよそに、妖精(と呼ぶことにする)は卵の内側からえっちらおっちら殻を壊して、ようやく外に出てきた。羽根があるなら飛べばいいのに、と頭の片隅で思ったが、生まれたてでは無理なことなのかもしれなかった。
呆然と成り行きを見ていた青年だが、妖精がぶるりと身震いしたことで我に返った。妖精の身体はしっとりと濡れそぼっていて、いかにも寒々しかった。それより何より、妖精は雌(?)だった。手の平サイズの若い娘が、裸身を震わせているのだ。
青年は慌てて、小さな布を持ってきて妖精の身体を包んだ。
妖精は最初、目をぱちくりさせながら青年の顔と自身を包む布を見比べていたが、やがて嬉しそうににっこりと微笑んだ。それは青年の中にあった警戒心や混乱などすべて吹き飛ばしてしまうほどに、無邪気で愛らしい笑顔だった。
これが、青年と不思議な妖精の出会いだった。
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