大きな桜の樹の下で

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 そんな人が、こんな私を、どうして娶ってくれたのか。  そんな問いを、彼は照れながら、しかし嬉しそうに、 「え、えと、そうだなぁ…。  僕は美樹の全部が好きだけど…うん。  僕はね?君の目に、一目惚れしたんだ」  そう、言った。  私の目に。  …神に呪われた様な、黒と銀のオッドアイに。  私が生まれ落ちてから今の今まで、ただただ忌むべき物でしか無かった、この瞳に、  …彼は、一目惚れしたと言ってくれたんだ。 「…そろそろ着きますよ、美樹さん」  呼び掛けられ、目を開ける。  私達は今、彼が待つ場所へ柚子が運転する車を走らせていた。  …どうやらうたた寝してしまったみたいだ。 「すまない、運転を任せっきりにしてしまったな」 「んな事良いんですよ。美樹さん。  それに後ろの二人もぐっすりですから」 「…夢を見ていた」 「夢?  …もしかして、兄貴の…」 「ああ」 「…もう七年になるんですね。あの日から」 「…ああ。そうだな」  窓を開けると、心地良い風が入って来る。  風の中に混ざる、春の香り。  目を閉じる。  瞼の裏に浮かぶのは、夫の、人懐こい笑顔。  …もうすぐ、会いに行くよ。  貴方に。  こんな私を愛してくれた、貴方に。  やっと。  やっと。 「…やっと会いに来れたよ。優(ゆう)」     
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