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彼の故郷にあるお寺。
彼は、そこに眠っている。
…永遠に目覚めない、眠りについている。
目を閉じて、手を合わせる。
今から丁度七年前の、あの日。
…後に東日本大震災と呼ばれる事になる、あの日。
彼は、津波に飲まれて死んだ。
誰かを助ける最中だったらしい。
夫は、その誰かを。
見ず知らずの他人を、最期の力を振り絞って助け、その代わりに津波に飲まれて死んだ。
彼らしい死に方だなと思った。
あの人は、とても…とっても、優しい人だったから。
…彼が死んでから、本当に色々あった。
心身共に、目も当てられない程ボロボロになった。
美優にも、柚子にも、花梨にも、沢山…沢山、迷惑を掛けた。
そして、ある日から悪夢を見る様になった。
真暗な場所で、彼が泣いている夢。
私を見て、ずっと、ずっと泣いているのだ。
泣かないで。
泣かないで。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
届かない言葉を、目が覚めるまで叫び続けて。
私は、人としてどんどん駄目になっていった。
家事の一切が出来なくなった。外に出る事が億劫になった。眠る事が出来なくなった。起きる事が出来なくなった。食事も取れず体重は三十キロまで落ちた。
…彼と結婚した事を。
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