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浄化と言っても、環境と住んでいる生物全てを丸ごと消滅させるのではなく、
ほんの少しを残す。聖書にあるノアの箱舟と同じだ。あの時は“水”だったが、
今回は“火”を使い、焼き尽くすという事だ。文明が発展の頂点、退廃の頂点を極めたとか、そういうのは関係ない。人間的な言葉で言えば、“予定”として決められている事なのだ。
男にとって“この日”はもう何百回も見てきた光景だ。浄化を担当するのは、
毎回様々なモノである。疫病の時もあれば、天災もある。今回のように
実際に怪物が姿を現すのは、何十回目の事か…
文明や種族の違いはあれど、浄化の対象になる生物達のとる行動はおおよそ変わらない…
逃げ惑い、抗い、少しでも長く生きようともがき(時には同胞を犠牲にしてまで
助かろうとする事だってある)最後には天に祈り、滅んでいくのだ。
観察の仕事として、その時代の生物達と“同じ姿”をとり、目の前で見てきた男にとっては
最早、見慣れた光景でもある。
今回の彼はここに1年前から“現地入り”をしていた。愛着も少しはあるが、
長くはいられない。数時間程の滞在をした後、世界中を見て回る予定だ。
7日程で浄化完了になるよう、向こうもスケジュールを組んでいくだろうから、こちらも、それに合わせて、人間で言う所の“報告書”を作成し、これまた同じで“上司”に
提出すればいい。
具体的な行動手順を決める男の周りが騒がしくなり始めた。意識をそちらに戻せば、
通りに…わずかではあるが、人の姿が見え始めている。
建物や地下シェルターに(ニュースなどで知ったが、この国では現在、隣国からのミサイルの脅威に怯え、自宅や都内の施設に避難施設を設置する傾向があるようだ)
隠れ、“一時的”に難を逃れた人々だろう。
彼等は空を見上げ、狂ったように笑ったり、泣きわめき、1人で佇んでる自分に
「何を見た?アンタはどうやって生き残ったんだ?」
と、これまた何処の時代でも“お決まり”の台詞をぶつけてくる。
原則として“生物との会話”は禁止されていたし、男としても、いい加減に飽き飽きして
いる内容なので、何も答えない。彼等もそれ以上の追求をしてこない。
「だ、誰か手を貸してください。おばあちゃんが…」
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