0人が本棚に入れています
本棚に追加
ふいに、他とは違う内容の声に振り向けば、ひとりの少女が自身の祖母であろう
高齢の女性の肩を一生懸命に引っ張っている。
彼女の足は傷つき、血で染まっていた。年齢的にも“死を少しだけ遅らせる逃避行”には
参加できないだろう。
「見せて。」
1人の若い女性が駆け寄り、傷ついた足を触る。痛みに顔をしかめる祖母の様子を見た
少女が泣きそうな…いや、もう泣いた後か…の表情を更に歪める。
「酷いわね。」
女性は医療関係の人間なのだろう。呟き、携帯を取り出し、耳に当てるが、
力なく首を振り、ポケットに戻す。
「携帯にネットも、テレビも何にも映んねぇ。使えねぇよ。もう終わりだよぉ、
クソッタレェ!」
地面を蹴る若い男が、女性達に対し、罵声のように“自身の絶望”を浴びせた。
「いい加減にしないか。今は、この人を何とかして、ここから運びださなければいけない。」
中年のスーツを着た男が若い男を嗜め、女性達に駆け寄る。文明を持った生物達がとる
“滅ぶ前のありがちな行動”だ。恐らく世界中のあらゆる場面で、同じ光景が
繰り返されている事だろう。
しかし、それも一瞬の事と決まっている。
「オ、オイッ、あれを見ろ。」
若い男が空を指さし、悲鳴を上げた。見れば、地上に残った僅かな“浄化対象”を目ざとく見つけた怪物の一隊が、こちらに向かって飛んできている。
最初のコメントを投稿しよう!