迎撃の日・・・

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「逃げないと…」 女性が呟き、少女と高齢の女性を見下ろす。彼女の視線に込められた意味はわかる。 負傷者は足手まとい… 自分達が、いや一人でも多く助かるためには…非常事態の、 “実に非情な選択”をしなければいけない事を暗に示しているのだ。 高齢の女性もそれがよくわかっている。彼女は一瞬、空を見上げ、それから少女に向き直りとても優しい笑顔を見せ、(“彼等”ではない男はその笑顔の意味を理解するのに 半年もかかった。) 彼女の小さな頭を抱きしめる。やがて中年の男性と女性を見上げ… 「この子をお願いします。」 と言った。少女が 「嫌だ、嫌だよ。おばあちゃん。」 と泣き叫ぶ。 苦悶の表情で“おばあちゃん”に頷き返した男性が、彼女を強引に抱きかかえ、 「仕方のない事なんだ。」 と諭すように少女へ語り掛ける。 若い女性の方は、高齢の女性に 「ごめんなさい」 を繰り返し(それに対し、彼女は「いいのよ」と精一杯の笑顔で微笑んで見せている。) 若い男はと言えば 「オイ、早くしろよ。アンタ等、ババアの命より、1人見捨てて4人が助かるのが、 この場合、最善の方法だろうがっ!?急げよ。」 と、とても正論だが、人間という生物的には“非常に最低で手前勝手な理論”をぶちまけ、いつの間にか生き残った4人を(男は含まれてない)生命共存の立場、 つまり一緒に行動するグループに仕立て上げ、この後で起こる一切の出来事に対し、 責任や犠牲を押し付け、利用するための共同体を作り上げようとしている。 勿論、彼自身は、そこのリーダーにちゃっかり収まる気構え満々で、様子もありありだ。  
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