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子供の時間
「あっ、くまさんだ!!あそこあそこ!!」
「あっ、こら、××くん、危ないわよ!」
また一人、大きなプレゼントの虜になった子供が此方へ向かって駆け出してきた。
眩しい笑顔に懐かしいあの日を思い出す。
あぁ、すこし昔の今日、僕ら結ばれたんだ。
白いドレスの君は素敵だった。
未来への希望に輝く瞳。
は、一瞬にして絶望に染まる。
「あっ……」
逸る心に縺れた足が絡まって、小さな体は一瞬、空を飛んだように見えた。
うつ伏せに倒れこんだ子供に、ずしゃりとアスファルトが泣いた。
「……あっ……あ゛ーーーん」
わんわんと子供の泣き声が高く響く。
明るさに飲まれてみんなには見えない。
「君、大丈夫?怪我はない?」
「う゛ーーー」
そっと抱き起こしてやると、ズボンの膝の辺りが薄くなって赤が滲むのがみてとれた。
どうやら、手を軽くと、膝を擦りむいてしまったようだ。
ぽんぽんと軽く砂利を払ってやりながら優しく、大丈夫かいと尋ねるが、わんわんと、この世の終わりみたいに泣くばかりで答えはない。
「ゆう!!」
「あ゛あーーまま゛ーーー」
子供の母親が早足に此方へ向かって来た。
すみませんと軽く僕に会釈するので膝を擦りむいているのを教えてやると、もう一度軽く頭を下げた。
この世の終わりは案外身近にあって、だから子供は泣くのだろうか。
特別な今日にも必ず終わりが来るように、幸せだった日々は当然のように終わりを告げた。
世界の全てが僕達を祝福しているというわけじゃない。
そんなあたりまえに忙殺され、僕はどうやら可笑しくなっていった。
全て、守れるような、全て、手に入ってしまうような気がしていたこの手は案外小さく、案外力強く守りたかったはずの君を傷つけた。
君の頬が、腿が、腹が、足が、赤に、紫に、緑に染まってゆくのを僕は……
「もう、仕方ないなぁ……。ほぅら、痛いの痛いのー飛んでいけ!」
「……うっ」
母親の言葉に子供は嘘のように泣き止んで、きゃっきゃと、また幸せを振りまき始めた。
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