大人の時間

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大人の時間

あの日の僕は子供だったんだ。今日という特別な日が、他人の降誕を祝う日だなんて知らなかった。サンタクロースはパパとママなんだって知ったかぶっても、世界が自分の為に回っていない事をまだ受け入れられていなかった。 君が何にも悪くない事。本当は知っていたのに。 今日までずっと見ないふりをしていた。 遠くの教会で祝福の鐘がなる。今日も誰かが君の色を着て笑うんだ。なのに君が泣いているなんて。そんなこと。 大通りから一本離れて、細い路地に入る。 さっきまでの賑やかさが嘘のように、しんと静まり返った暗闇が僕を出迎えた。 怒鳴り声の無い、祝福の歌も聞こえない静かな部屋で、久しぶりにぐっすりと眠っている君へ。僕からプレゼント。 僕が君にしてあげられる最後のこと。 奇跡みたいに目に付いた、名前の知らないビルの階段を一歩ずつ登ってゆく。 屋上まで登ると遠目に明るい光が見えた。キラキラと輝くイルミネーション。誰かを祝福するようで、誰の為でもない。 「だけど今日は、君のための白だ」 ふわりと風が吹く。僕は光に背を向け角に立つ。 深い黒に飛び込んで、ずしゃりと鐘を鳴らした。静かに、静かに、君が目を覚ましてしまわない様に。 途方も無い浮遊感の中で遠い幸せが、あたりまえだった幸せが見えた気がした。 意識が深く沈む、気がつくと僕は、赤くて立派な絨毯の上を歩いている。色とりどりの絵画が長い長い廊下の、壁一面に並んで、華やかにライトアップされている。 最後にどうか君の色が見たくて、僕はまた、階段を上った。 そこにあったのはーー
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