白い日にち

12/12
前へ
/12ページ
次へ
 いつの間にか眠っていたようだが、俺はベルの音に起こされた。  ピンポーン。  営業の時と同じ長さで鳴らされる音。最初、営業だと勘違いしたのはそのせいだと今更ながら気づいた。  駆け寄ってドアを開けると、やっぱり河本さんだった。「こんにちは。まだ寝間着なんですね」 「ああ、そうだった。ごめん。着替えればよかった」 「いえ、いいんですよ。今日ぐらいしかその姿は見れないでしょうからね」  河本さんは最初に来たときと同じように、袋を持ち上げた。けれど、今度はビニール袋じゃなくて、細長い紙袋。 「ワインが飲みたくなったので買ってきました。でも、おつまみがないので生ハムとチーズを食べさせてください」 「…………おまえ、俺のことまたからかったな」 「ふふふ。泣きそうな顔してましたね。宮田さんもかわいいところがあるんですね」  靴を脱ぐ河本さんにスリッパを用意する。もう勝てるなんて思ってない。 「なんかすみませんね」 「なにがだ?」 「特別な日、台無しにしましたね」 「いや、そうでもないよ」  今日あったことはスケジュール帳には書かないでおこう。そうすれば今日は特別な日になるのだから。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加