5人が本棚に入れています
本棚に追加
いつの間にか眠っていたようだが、俺はベルの音に起こされた。
ピンポーン。
営業の時と同じ長さで鳴らされる音。最初、営業だと勘違いしたのはそのせいだと今更ながら気づいた。
駆け寄ってドアを開けると、やっぱり河本さんだった。「こんにちは。まだ寝間着なんですね」
「ああ、そうだった。ごめん。着替えればよかった」
「いえ、いいんですよ。今日ぐらいしかその姿は見れないでしょうからね」
河本さんは最初に来たときと同じように、袋を持ち上げた。けれど、今度はビニール袋じゃなくて、細長い紙袋。
「ワインが飲みたくなったので買ってきました。でも、おつまみがないので生ハムとチーズを食べさせてください」
「…………おまえ、俺のことまたからかったな」
「ふふふ。泣きそうな顔してましたね。宮田さんもかわいいところがあるんですね」
靴を脱ぐ河本さんにスリッパを用意する。もう勝てるなんて思ってない。
「なんかすみませんね」
「なにがだ?」
「特別な日、台無しにしましたね」
「いや、そうでもないよ」
今日あったことはスケジュール帳には書かないでおこう。そうすれば今日は特別な日になるのだから。
最初のコメントを投稿しよう!