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「今日は特別な日だ」
俺がそう言うと、電話越しの河本さんはしばらく黙り込んだ。
ショッピングモールに行こう、という誘いを断るための言葉だった。河本さんが黙ってしまってから、自分の使った言葉に後悔した。
人の誘いを断るとき、余計なことを言う必要はない。「それは無理だ」と言えばいいだけなのだ。それで引き下がってもらえるならそれでいいし、理由を聞いてくるようであれば、そのときに理由をつければいい。
「今日は特別な日だ」なんて特別な理由は、どんな日なのか質問してくれと言っているようなものだ。
仕事でもそうなのだけれど、電話をするときは相手の姿を頭の中で絵を描くようにしている。水彩画だ。たぶん淡い輪郭の方が想像しやすいからかもしれない。
口角があがっているし、仏様のように穏やかな目をしているから、いつもほほえんでいるように見える。ふわふわウェーブの栗色の髪はリスみたいだ。
優しい雰囲気の河本さんだけれど、今はきっと硬い表情をしているだろう。
沈黙している間、考えていたようだが分からなかったようだ。
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