3.それって入社詐欺じゃないの!?

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「お、おぅ……ま、まぁなんだ、ワシの指示通りに動けば間違いなく死ぬ事は無い、そう断言してやる。 だからほら、菓子でも食って落ち着け」  ヨシヲ社長が着る色褪せたジャケットの胸ポケットから透明の包装紙に包まれた一粒の飴が取り出され、それを受け渡すと……アリカはそれを不思議そうに見つめていた。  飴玉なんて、この時代じゃそんなにお目に掛かれる物じゃないからね、その時初めて見たよ。 「これって?」 「名前くらいは知ってるだろう、飴玉だよ。 あ、食う時はちゃんと包装取るんだぞ」  「わぁ」と子供みたいな声を上げて包装紙を開き、中から出てきた赤色の粒を手に取ると……それを口に運ぶ……すると途端にじわぁと甘い感覚が舌一杯に広がり、些細な事だけどなんだか感動した気分がやってきたのを覚えてる。 「んうー!! おいひぃ~!!」  先程の剣幕などどこ吹く風……笑顔に包まれたアリカの顔は本当に子供の様。 「んじゃちょっと落ち着きがてら、そこで仕事内容に関して話し合おう、な?」 「ウン」  その部屋の中にある作業机の横に置かれた椅子に座り、二人が再び相見(あいまみ)えると……静かな口調でヨシヲ社長が語り始めた。 「このダイバースーツはこう見えるが最新技術の塊だ。 そしてこいつを纏って落ちる分には何の問題も無い。 遠隔操作もいざって時は可能なんだ」 「フムフム」 「しくじるってのはつまりあれだ、着るお前さんが変に邪魔しない様にしなきゃいいって訳よ」 「なーるほどなるほど、じゃあアタシ死ななくて済むの?」 「死にゃせんよって言っとるがな」  おバカなりに考え出した結論……「死ななきゃいい」、それに尽きる。  その時「就労所の方がマシ」だなんて言い出さなかった事、それだけが今思う上で良い選択したって胸を撫で下ろす出来事だったよ……。  まぁ……今直ぐに「落ちる」訳じゃあないから。  それだけがその時の救いだったかなぁ。
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