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決してモルガは高所恐怖症というわけではない……のだが、気持ちばかりの命綱で体を縛ってもらったとはいえ、指の隙間から遠く離れた赤い砂漠の大地がチラチラ見えるし、巻き上げられた砂埃が頬に当たり、スピードもあって地味に痛い。
吹く風は強いが、機体そのものにあまり揺れがないことが、せめてもの救いか……。
闇の精霊機『ハデスヘル』。旧トレドット帝国の象徴であり、守護神。
この精霊機もまた、その『大神』がもたらした技術の一つ──と、言われていた。
『伝説』を間近で見るどころか、直接触れることができ、普段のモルガであるならば、諸手をあげて大喜びしているところだが……今はとても、そんな状況ではない。
七つの美しい帝国は、幾千年も続く戦乱のせいで、一つ、また一つと数を減らす。
最初に滅びたのは『地』の帝国イシャンバル。精霊機ヘルメガータは、滅ぼしたアレイオラに渡してなるものかと、トレドット帝国へ託された。
次に滅びたのは『風』の帝国リーゼガリアス。精霊機アレスフィードは、アレイオラのものとなる。
『闇』の帝国トレドットが滅びたのは、今から五十年ほど前の事。
当時のトレドット皇帝レイヴンの末の皇子と、イシャンバルから託されたヘルメガータとともに、ハデスヘルはフェリンランシャオへと譲られた。
「す、少し休憩するか?」
「いや、いい。大丈夫じゃ」
急いで、故郷に帰りたい気持ち半分。
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