六章

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イライザは粗雑に部屋のドアを開けてクラウスを睨む。クラウスが言う通りにした後、オスカーは心配そうに聞いた。 「お前が望めばあいつは処罰の対象になるが……」 イライザは首を横に振る。 「いいわ……一度は惚れた弱みよ。それより……来てくれてありがとう」 「ゼルダ嬢が先回りして呼んでくれたんだよ。あの男がお前と密会しようとしていると」 「本当に? ゼルダ、何て御礼を言ったらいいか……」 ゼルダは照れてはにかんだ。 「エリーザ様は、不倫なんかしないと信じてましたから」 賢いメイドだ。イライザは念を押すように再度「ありがとう」と言ってゼルダの手を握る。そして笑顔のまま呟いた。 「これだから、王女なんて嫌だわ。世間知らずで、相手の言う事なんて全部鵜呑みにして、出世の道具と思われてたなんて……気づきもしないで」 イライザはオスカーの方に振り向かない。 「笑えばいいわ、愚かな妻だと。追い出せばいいわ。(よこしま)な感情を抱いた、醜い妻を」 オスカーは無理矢理イライザの顔を自分の方に向けた。緑碧の瞳から涙が線になって伝っている。
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