六章

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オスカーの顔を見たイライザは目を濡らしたまま嗤った。 「本当に……愚かだったわね」 オスカーがイライザのほおに優しく触れると、イライザは大きな瞳を更に見開いた。 彼は笑っても怒ってもいなかった。ただ哀しそうに、彼女を見つめている。 「……今夫に甘えない妻こそ、愚かだとは思わないか」 ゼルダが部屋の扉を閉める音がした。イライザはオスカーを見つめたまま固まっているが彼は動かない。 この人は、この愚かな妻の甘えを、許すのか。 イライザは触れられた彼の左手に手を添える。涙がより一層込み上げた。 「………っ」 遂にイライザがオスカーの胸に顔を押し当てると、彼はようやく彼女の華奢な背中に腕を回し、壊れ物を扱うように優しく抱き締めた。
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